3-2 荘園の徴税システムを押さえた

 鎌倉幕府は鎌倉殿(源頼朝)と御家人とのパーソナルな主従関係に基づく集団として出発した。その御家人とは開発領主のことと、鎌倉時代の訴訟指南書「沙汰未練書」は定義している。領地を持ち、荘園を運営している武士を開発領主と呼んでいる。

 領地というと一定の土地を勝手に占有し、勝手に住民から税金(当時もコメが中心)を取り上げるように、誤解する人が出てくる。しかし、古代に大土地を所有したら、国衙が税を納めろと言ってくる。抵抗すれば収公される。中世の荘園は大土地所有ではあるが、荘園自体はあくまで公的な制度であり、武力で勝手に作れるものではない。荒地を開墾して耕地にしても、荘園にするには公的な手続きを経て、太政官符など証明書を交付されて、初めて正式な荘園になる。こうした手続きのためにも、京都での人脈が必要だった。

 よく荘園は「私領」と表現される。確かに「公領」ではない。しかも荘園を現地で管理(勧農、徴税など)する荘官(公文、下司など)は、荘園の本所が任命するという私的関係に基づく。しかし、荘園そのものは公的に認知された制度である。中世の税金は、官物と臨時雑役に分かれるが、国が認めた官省符荘は、雑役は負担するが官物を免除される。逆に多くの寺院系荘園は、官物は納めるが雑役は免除される。いずれも半分は公領のようなものだ。荘園の種類はこの他にもあり、税負担を含め多様だった。税は一部免除されても、荘園領主への貢納が必要で、これは国家が給付すべき分を肩代わりした面がある。

 荘園の農民が税を払うと、それは名主(みょうしゅ)→荘官→預所(あずかりどころ)→領家→本家という形で流れる。この領家、本家のうち荘官の任命権のある方を本所と呼ぶ。本家・領家・預所が公家、荘官は武士、僧侶など。本家は鎌倉時代には天皇家、摂関家、大寺社などごく少数に限られるようになった。名主は在地のリーダーである。この役割分担には身分・家格制が貫徹している。

 この徴税は、たとえば荘官が集まった税の20%を取って、次の預所に80%渡す。こうした繰り返しで、最後に本家へ税がわたる。この荘園は誰のものか。荘官・預所・領家・本家のすべてが収入を得る権利があるため、全員が「私のもの」といえる。地頭はこの荘官である。本所が任命した従来の荘官と運営方法は基本的には変わらなかったもようだ。税の取り立ては厳しかったが、武の専門家のため地域の安全確保には力を発揮した。経済的には荒廃田の再開発、商業拠点整備など、貪欲ともいえるほど積極的だった。戦争になれば、恩賞としての新領地を目指して参加した。こうして新恩により遠隔地の領地が手に入ると、地頭一族のネットワークも拡大した。

 もともと荘官は在地の富を支配階級(公家など)が吸い上げるパイプの役を果たしてきた。そして荘園では本所が最も強い立場にいたが、荘官の位置を占める地頭の人事権を鎌倉幕府が握ったことで、力関係が変わり始める。地頭が言うことを聞かない。本所が地頭を替えてほしければ、幕府に頼むか、あるいはその裁判に訴える以外ない。(本所同士の紛争は朝廷が裁判をして解決した)。いわば鎌倉幕府により荘園制度は、武士有利に変えられた。この地頭の人事権が武家の最大の防波堤になった。あるいは攻撃拠点にもなった。

 時代が進むと、地頭など各職に代理が現われて、徴税プロセスの中に入ることが増える。税徴収の流れは、さらに複雑化していく。

 10世紀の「王朝国家」期では、国司が都から連れてきた手勢が国衙で徴税をすることがあったが、平安時代後半をすぎると、現地の武士が「在庁官人」として徴税、治安維持を担うケースが増えてくる。この地域のリーダーは、一族の中から武士を京都に派遣し、中央情報を集め、人脈を形成していった。こうした在庁官人は公領だけでなく、荘園の管理もする。当然、武士として地域の安全確保へ武力を蓄えた。

 鎌倉時代、地頭は公家からしばしば訴えられた。荘園から送られてくるはずの税金が来ない、というクレームである。「忘れていた」「天候不順で不作だった」とウソまがいを答えたりするが、結局は訴訟に負けるのが鎌倉初期である。これが鎌倉末期になると地頭が訴訟に勝つケースが増えてくる。

 そして室町、戦国時代になると、現地から領家などへ送られるはずの税金がどんどん細っていく。室町の「半済」のように制度として一部税金免除を強行する例もあった。戦争の際だから納税を停止するなどが重なり、もとに戻らなくなっていく。荘園から受け取る富について、武士が独占へ向けて動き出す。現地を武力で押さえているため、本所も手をだせない。こうなるともはや荘園ではなくなる。この最終局面が織豊政権であり、結局は税金を現地領主が独り占めすることになる。

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