4-9 明治以来の転機は平成か(続)

 昭和戦後の政治は、無条件降伏から始まった。国連中心と言っていたが、アメリカと同一の歩調を取ることを意味した。戦争に負けるということは、外交機能を失うことだった。

 戦後はイデオロギーの時代だった。マルクス主義を信奉するソ連、アメリカンデモクラシーこそが世界の指導理念と主張するアメリカ。日本は、中ソに対するアメリカの前線基地の役割を割り振られた。アメリカvsソ連という冷戦構造を、そのまま国内に持ち込み、自民党vs社会党という対立構造が成立した。議席数だと2対1、二大政党制ではなく、1・5大政党制と皮肉られた。自民党はアメリカと歩調を合わせるとともに農村を押さえ、社会党は社会主義をめざすというより、官公労、国労など労働組合、都市サラリーマン層の代弁者であった。社会党の隠れた役割は、反米的な心情の捌け口だった。この点では、自民党内部の自主外交派と心情を共有していた。

 ところが、敵のはずであるソ連が経済不振から弱体化してしまった。たとえば靴下のような日用品が不足するといった、官僚による計画経済の弱点が露呈のだ。80年代から自由化して軟着陸を図ったが、1991(平成3)年12月にソ連はついに崩壊した。

 もうひとつ、日本を巡る環境の激変が、湾岸戦争に伴って起きた。当時のイラク大統領サダム・フセインによるクウェート侵攻に対し、1991年1月から国連軍が介入し、クェートを救ったのである。この戦争に対して、アメリカは自衛隊の出兵を希望したが、日本は戦争放棄の国是から、これを断った。その代わり、国連軍に対して総計130億ドルの資金提供をした。ところが、逆に「血を流さずに、カネで済ますのか」と、アメリカが猛反発をしたのである。

 さらに1989(平成1)年には、中国で天安門事件が起きた。学生の民主化要求に対して、武力弾圧をしたといわれる。それ以降、民主化を求める動きが鳴りを潜めた。一方で経済の改革開放がスピードを増し、中国はアジア諸国のリーダーとして、影響力を強めてきた。次いで、海軍など軍事力を拡充していった。

 ソ連の崩壊は、戦後の枠組みだった「冷戦」の終了を意味した。冷戦の国内的反映だった自社対立が意味を失った。ソ連は資本主義への転換のため混乱がしばらく続き、アメリカは敵がいなくなった。国内では敵を前にしてまとまっていた自民党が、内部から分裂を始めた。主流派の有力な総裁候補だった、小沢一郎が1993(平成5年)に自民党を飛び出した。この年に非自民の細川内閣が成立した。

 アメリカも変化した。ソ連・中国の社会主義は波及しない防波堤として、日本を優遇する必要がなくなったのだ。80年代から経済摩擦は次々と起き続けたが、それに加えて政治圧力が強くなっていった。「日本も軍隊を出して、アメリカ軍の一部活動を肩代わりしてくれ」と、要はこういうことである。これを受け、日本の政治が徐々に変化していった。もともと、日本の政治には自民党に限らず、「自主外交」と「アメリカ妥協」の二つの流れがあり、「妥協派」が力をつけてきたのである。もちろん分野によって、「自主」にもなり「妥協」にもなるため、単純に個々の政治家にレッテルは貼れない。中国に対しても同様の二つの流れがある。これもアジア派、欧米派と単純には言えない。

 中国が軍事的にもプレゼンスを大きくしてくると、日本の心理としては、軍事的に最強のアメリカに近づく誘惑に駆られる。中国、韓国・北朝鮮が「歴史認識」を持ち出してくると、反発する人の声が大きくなる。このまま進むと、アジア諸国とは経済的な関係は濃密になっても、それ以外の分野では日本はアジアの孤児になる可能性がある。もちろん、中国が大国主義的に動けば、アジア諸国の反発を招き、そう一直線には進まない。

 日本が難しい選択を迫られているのは確かだ。それは平成とともに始まった。

 アメリカが軍事へのコミットを求め、それを断ってきたというのは、戦争直後を除き、一貫して吉田茂以来の日米関係の基本構造だった。憲法がその最大の理由だった。それをどうするかが焦点になる。ただし、それ以上に大事なのは、こうした米中の狭間で、日本が独自の機能を発揮できるかどうかである。アイデンティティをどこに求めるか。

 話が飛ぶが、井上ひさし「吉里吉里人」は、医療立国を実現した小国の話である。各国の元首が治療に訪れるため、戦争を吹っ掛ける国がない。もちろんユートピア物語だが、何か世界が必要とする機能を持って、いかに貢献するかを真剣に考えないと、強いものに振り回されることになりかねない。

 そうした世界へ貢献する施策を構想するのは大変難しいが、高齢化社会、人口減少、限界集落など、時代の課題に正面から取り組む中で、現場から生まれてくるのではないか。まず官僚からは生まれないだろう。より柔軟な頭脳、組織による自由な発想を、政治が汲み上げていく以外にない。若者に期待大である。

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